5月10日に発売した『僕らはソマリアギャングと夢を語る――「テロリストではない未来」をつくる挑戦』の著者・永井陽右さんが、先日留学先のイギリスより日本に一時帰国されました。短い滞在日程の中、取材や各地でおこなわれる講演会などで忙しい日々を過ごされました。

(会社に来ていただいたときに撮影した写真。左:永井さん、右:弊社代表・原田)
さて、今回のブログは5月18日(水)に永井さんの母校、早稲田大学でおこなわれた講演会「世界最悪の紛争問題に挑む日本とソマリアの若者たち~テロリストではない未来をつくる!~」の内容をお届けします。
現在、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス紛争研究修士課程に在学中の永井さん。早稲田大学在学中にソマリアの大飢饉と紛争の問題を知り、NGO「日本ソマリア青年機構」を設立しました。
永井さんがどんな想いを持って活動に取り組んでいるのか、その活動はいったいどういうものなかのか、後輩たちに伝えたいこととはなにか。著書『僕らはソマリアギャングと夢を語る』の内容もふまえながら、講演内容をご紹介したいと思います。

日本ソマリア青年機構は、日本で唯一「紛争地」ソマリアに特化したNGOです。メインのプロジェクトは潜在的自爆テロリストであるソマリアギャングの過激化防止と積極的社会復帰プロジェクトです。その他には、サッカーチームへの物品支援やソマリア人の若者の日本留学支援をおこなっています。
「世界で一番こまっている人たちをなんとかできないか。」
たったひとつの想いから立ち上げたのが「日本ソマリア青年機構」でした。永井さんが大学1年生のときです。しかし設立当初は、ソマリアギャングの積極的社会復帰プロジェクトのアイデアもなかったようです。「自分たちだからこそできることはなんなのだろう?」と模索する日々が長く続いたようですが、それでもとにかく仲間と話し合って、アクションして、また考えて。その繰り返しのなかで、自分たちと同年代である「ギャング」に目を向けるようになったそうです。
著書には、プロジェクトに参加して生き方を変えた3人のギャングの姿が描かれています。1人はソマリアの実家に戻り、1人は南アフリカの親戚のもとに行き、もう1人はなんとニュージーランドの大学に留学したとか! 彼らの姿を思いながら、永井さんはこう書かれています。
「3人のように夢に向かって進んでいる人たちの姿を見ていると、人生に裏技なんてものはあまりなくて、ひとつひとつ積み重ねていくことが大切なんだと思う。その積み重ねは面倒だったり大変だったりするだろう。でも、僕らが出会った勇気あるユースたちは、必死に一歩一歩、日々を生きている。」
永井さん自身こそ、ひとつひとつを積み重ねてきた人だなぁと思います。
その後、講演は「紛争解決の必要性」という大きなテーマに移りました。

僕の問題意識は、紛争問題に対するコミットメントが致命的に不足している、ということです。紛争は「人権侵害の程度」という観点で、きわめて深刻な問題です。どの社会にも、いろんな問題があります。そのなかでもニーズや優先順位が抜群に高いのが「紛争問題」だと、僕は考えています。たくさんの人が不当な暴力を受け、たくさんの人が死にます。現代の紛争を解決するためには、基本的に外部アクターのコミットメントが不可欠です。ではなぜコミットメントが不足しているのでしょうか。いくつか理由を考えてみました。
・アクセスが難しい
・コミットメントに求められるレベルが高く、難しい
・収益モデルの構築が非常に難しい
・モデルケースが圧倒的に少ない
理論上、紛争解決にはマクロとミクロレベルのアプローチがあるそうです。マクロレベルでは「政治的な統合」や「政治スキームの再構築」で、ミクロレベルは「コミュニティレベルでの統合」や「現場レベルでの暴力の解決」「対話」を指すそうです。
最近は紛争の構造が変わってきました。「戦争」から「紛争」に変わったのです。戦争はお互いに戦争布告して戦いがはじまります。でも新しい紛争は、当事者がよくわからない。政治的に正当な存在じゃない。組織的にも全然洗練されていない。戦う目的や戦術が変わった。これが何を意味するかというと、マクロレベルの政治的な合意、政治的な再構築ができないということです。
印象的だったのは、新しい紛争の特徴として「和平合意がない」という点です。今までは、和平合意のあとに平和構築がはじまったので、和平合意までが紛争解決のフェーズであったのですが、今の紛争は紛争解決と平和構築の領域が不明瞭になってきているから、その2つを同時に取り組んでいかなければならなくなってきているそうです。
それでは新しい紛争において、マクロレベルの紛争解決が難しくなっている今、どうやって紛争解決をしていけばいいのでしょうか? 永井さんが強調しているのは「アメとムチを同時に行う」ということです。これまでの紛争解決は「ムチ」、すなわち空爆などの軍事作戦によって武装勢力の強度を下げることだけが行われてきました。しかし、当事者がはっきりしない現代の紛争では、「元テロリスト」は必ず残るし、どうやって彼らを社会に統合していくかが大きな問題になります。そこで「アメ」、NGOや企業やコミュニティーなど、文民による社会統合の取り組みが重要になると永井さんは訴えます。
永井さんは、日本ソマリア青年機構のソマリアギャングの積極的社会復帰プロジェクトのアプローチに、アメとしての可能性を感じていらっしゃるようです。

そこで、アメの部分として日本ソマリア青年機構がおこっているのが「ムーブメント・ウィズ・ギャングスターズ」というソマリアギャングの積極的社会復帰プロジェクト。ギャングは15-29歳と若く、永井さんたちと同年代。同年代であるからこそ、学生がアプローチできるのだと永井さんは言います。
このプロジェクトについては、本のなかで詳しく書かれています。ギャングたちそれぞれが地域や自分の問題を考えて、解決策を考える。日本ソマリア青年機構はその後押しをする。日本の学生とソマリア人が一緒になって問題解決に取り組む姿には本当に胸が熱くなります。
誰も彼らにアクセスすることができないなか、同年代である日本人の僕らがアクセスできたことに可能性を感じています。そしてこれは、学生だからこそできることで、日本ソマリア青年機構の存在意義はここにあります。現代的な紛争問題において学生がもつ可能性と優位性があると思います。
最後に、いろんな国際協力の定義があるなかで永井さんが個人的にこれだ、と思った言葉を教えてくれました。
「真の国際協力とは、自分がやりたいことをやって自己満足にひたるのでも、自分に専門性があることをやるのでもなく、それが必要であれば、自分がどんなにやりたくないことでも実行し、専門性が必要ならそれを身に付けていこうと努力していく姿勢を言う。」(国境なき医師団として活躍されたことがある山本敏晴さんの言葉)
講演後のQ&Aの時間ではたくさんの質問が出ました。以下、一部紹介します。

Q:ギャングたちがどうなったら成功といえるのですか
まず、ギャングをやめさせることは目指していません。ギャングたちにはギャングになった理由や背景があるので、「ギャングをやめろ」というのはかなり過激なことです。まずは、自分のことを「ギャング」ではなく「社会を変えるユースリーダー」だと認識するように、アイデンティティーを変えてもることを目指します。そのうえで、暴力や犯罪行為をやめ、スキルトレーニングに通うことで、自力で社会復帰への道筋をつけるようサポートします。
Q:紛争解決の先にどんな世界を見ているのですか
皆さんと同じで、紛争がない平和な世界を願っています。だから、そのために自分だからできることをやっていきます。
Q:紛争はなくなることはないと思いながら、どうしてこの活動を続けるのですか。
少なくとも自分の生きている間にはなくなることはない、という意味でした。でも、だからといってやらなくていいという理由にはならないし、大きなニーズがあって、自分にできることがあると思うから、それを続けていきたいです。
「動かない岩だとわかっていても、それでも動かそうとする。」
永井さんのお話を聞きながら、昨年開催した「U理論セミナー」で『U理論』訳者の中土井僚さんが言われていたことを思いだしました。どんな問題に対する取り組みもすぐにいい結果がでるものではないし、すぐに物事が良くなっていくことは極めて少ないけど、それでも一歩一歩前進しつづける信念と勇気と強さを永井さんの講演のなかから感じ取りました。
永井さんをはじめ、日本ソマリア青年機構のみなさんの安全を祈りながら、これからのさらなる挑戦と活躍を応援したいと思います。
『僕らはソマリアギャングと夢を語る――「テロリストではない未来」をつくる挑戦』
