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エネルギー問題をじっくり考えるための15冊

エネルギー問題は私たちの生活、経済、社会のあり方のあらゆる面にかかわってくるため、一筋縄ではいきません。さまざまな視点や主張に触れてバランスよく考えていくことが大切でしょう。『パワー・ハングリー』と併せて読みたい本を、訳者の古舘さんに選んでいただきました。

選者・古舘恒介さんからの言葉

エネルギー問題は人間が生み出した問題である以上、その解決には、科学的な見地だけでなく、人間を深く知ることが必要です。その意味で、哲学的な態度、そして歴史から学ぶ姿勢が極めて重要だと私は常日頃考えています。哲学的な問いを発するということは、答えが人それぞれに異なりうるということです。絶対的な正解が存在しない問いを発し、各人がそれぞれに思索を重ね、迷いながらも見いだされたその時々の立ち位置に、責任をもって対峙していく。こうした地道な活動によって始めて、イデオロギーに左右されないその人固有の立ち位置が完成します。絶対解のない問いを発し考えるという、受験勉強では経験できない哲学的思索を楽しみましょう。そうすることで始めて、エネルギー問題について、地に足のついた議論ができるようになるのだと私は信じています。

ここに、エネルギー問題を考えるために有用と思われる私なりのお勧めのリストを提示させていただきます。リストを見て、エネルギー問題に直接焦点を当てた本をあまり挙げていないことを不思議に思う人もいらっしゃるかもしれません。私がこの手の本をあまり選んでいないのは、そうした本の多くが、部分最適の議論に終始していたり、私が大事にしている人間の営みとの関連づけが希薄なため、その主張に今一つリアリティが感じられないものが多いように思うからです。もちろん、以下の本をすべて読破しなければエネルギー問題は語れないというわけではありませんし、すべてを読んだからといって明確な答えが分かるわけでもないでしょう。実際、私自身がまだ分からないことだらけです。したがいまして、気負うことなく興味に応じて、勝手気ままにつまみ食いしていただければ幸いです。

1)いのちの中にある地球――最終講義:持続可能な未来のために
デヴィット・スズキ著(NHK出版、2010年)
カナダで国民的尊敬を集める日系三世の環境学者によるブリティッシュ・コロンビア大学での最終講義を書籍化したもの。語り口はどこまでも優しく、自然への畏敬の念と、そして人類への限りない信頼と慈愛の精神に満ちています。エネルギー問題を考えるにあたり、なによりも大切な視点がこの本にはあるように思います。ちなみに、私が解説で使った「太陽の子」という表現は、本書から拝借しています。
2)石油ピークが来た――崩壊を回避する「日本のプランB」
石井吉徳著(日刊工業新聞社、2007年)
資源開発工学を専門とする東京大学名誉教授による著書。地球の有限性を認識し、いずれくるエネルギー・ピークへの対処法を説く内容。エネルギー問題を考えるにあたり、熱力学第2法則を理解することがいかに大切なことであるのかについて、分かりやすく説明されています。併せて著者は、日本伝統の「もったいない」の心を発揮することの重要性を説き、自ら「もったいない学会」を創設するなど、精力的な活動を続けています。もったいない精神の重要性は本書から学びました。
3)エントロピーと秩序――熱力学第二法則への招待
ピーター・W・アトキンズ著(日経サイエンス社、1992年)
物理化学を専門とするオックスフォード大学教授による熱力学第2法則の一般向け解説書。人類が熱力学第2法則を発見するに至った経緯に始まり、その法則の応用範囲の広さ、もたらされる示唆の豊饒さが、巧みな文章で説明されています。本書を読めば、誰もが熱力学第2法則のとりこになること間違いありません。そして、エネルギー問題にも自然に正対できるようになっていくことでしょう。
4)ゾウの時間ネズミの時間――サイズの生物学
  本川達雄著(中公新書、1992年)
動物のデザインはそのサイズに応じて決まっていることを示した生物学の入門書。大学生のときに本書に初めて出会ったときに受けた衝撃は、今でも忘れることはありません。生物とはなんと巧妙に形作られているのかと、純粋に感激しました。エネルギー問題を考えるにあたっては、人間を動物のひとつとして捉え、自然のなかで相対化することも必要だと思います。従って、本書が提示する視座を持つことの重要性は、近年ますます高まっていると思います。
5)「豊かさ」の誕生――成長と発展の文明史
ウィリアム・バーンスタイン著(日本経済新聞出版社、2006年)
人類の大規模な繁栄がなぜ19世紀に現出したのか、国家の繁栄と没落を隔てた条件を克明に解き明かした書。現代のエネルギー問題の出発点は、石炭を使い始めた18世紀にあります。本書からは、経済的繁栄がいかにエネルギーと密接に関係しているかがよくわかります。なお、解説の冒頭で触れたマルサスの罠について詳しく知りたい方は本書をご参照ください。
6)森と文明
ジョン・パーリン著(晶文社、1994年)
文明の盛衰の歴史を森との関係のなかから描いた書。本文464ページの大作で読破するには時間を要しますが、世界のいたるところで人類がいかに森を破壊してきたのかを克明に解説した良書です。ダービー親子の発明に始まる石炭革命なかりせば、多くの森林を急速に失い、近代文明は衰退に向かったであろうことは疑いようがありません。森と同じ形で太陽エネルギーを利用する再生可能エネルギーへの移行を考えるに際しては、人類の文明と森が辿った歴史について、改めて学ぶ姿勢が大切であると思います。
7)日本人はどのように森をつくってきたのか
コンラッド・タットマン著(築地書館、1998年)
江戸時代の歴史を専門とするイェール大学教授が書いた日本の森の歴史。やや難解な書物ですが、6)には言及がない日本の森林史を知る際の道しるべとなる本です。私は本書を読むまで、日本においても過去2回、古代律令国家の成立過程と戦国時代から江戸時代初期にかけて大規模な森林荒廃の危機があったことを知りませんでした。日本の森を守った先人の知恵から、我々が学べることは決して少なくありません。
8)国際政治とは何か――地球社会における人間と秩序
中西寛著(中公新書、2003年)
国際政治学を専門とする京都大学大学院教授の著書。「世界」が地球に限定されざるを得なくなった今日において、どのような社会の構築を目指すべきなのかについての深い洞察が本書にはあります。政治の本質が人間の人間による統治である以上、人間が生み出した問題であるエネルギー問題と政治には密接な関係があります。多様性の価値を認め、寛容の精神を養うべしとする本書の内容は示唆に富んでいると思います。
9)21世紀の歴史――未来の人類から見た世界
ジャック・アタリ著(作品社、2008年)
現代ヨーロッパ最高の知性とも称される著者が、21世紀の歴史を大胆に予言した著書。人間が作り上げてきた社会の構造を知ることはエネルギー問題の未来を考える上で不可欠な視点です。それにしても、著者の人類史全般への造詣の深さ、そこから紡ぎだされる洞察の深さには、ただただ恐れ入るのみです。世界には物凄い人がいるものだと思います。彼がその実現を信じる「調和を重視した新たな経済」とは、利己主義をもたらした現代の自由に一定の制限が設けられることで実現されるものです。なお、このお勧めリストを作成するために改めて本書を読み返してみたところ、本書における自由という言葉の定義には私が考えていた以上に微妙な色合いがあり、「自由を至上のものとする価値観が敗れ去る未来がくる」と彼が予見したとする解説での表現は、あまり正確ではなかったことに今さらですが気が付きました。「行き過ぎた自由は修正される」あたりが、より適切だったように思います。ジャック・アタリ、難しいです。
10)これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学
マイケル・サンデル著(早川書房、2010年)
2010年に日本でブームとなった「正義」をめぐる哲学の入門書。本書にある「正義への3つのアプローチ」は解説で使わせていただいたとおりです。三つのアプローチは、エネルギー問題に関する私自身の頭の整理に大変役立ちました。なお、コミュニティを重視する著者の立場は8)、9)の著者の考えに通じるものがあります。このあたりの共通性に、未来への希望を見出すのは私だけでしょうか。
11)グリーン革命[増補改訂版](上・下)
トーマス・フリードマン著(日本経済新聞出版社、2010年)
地球温暖化問題への対処として米国が進むべき道を、人類の英知への絶対的な信頼感を基に展開した書。著者はピュリツァー賞を3度取るほどの大ジャーナリストだけに、文章は巧みで、ぐいぐいと引き込まれていくものがあります。私はフリードマンの理想主義は大好きですし、少しでもそうした世界に世の中が近づいていってほしいと願っています。一方で、本書で描かれた世界がそのまま実現すると思うほどナイーブでもありません。人類が目指すべき現実的な目標は、フリードマンが描く世界とブライスが描く世界の間のどこかにあるのだろうと思っています。皆さんもぜひ、現実主義者のブライスの主張と本書を読み比べながら、それぞれに考えてみていただければ幸いです。なお、下巻の最終章にセバン・スズキという12歳の少女が行なったすばらしい演説の全文が記載されていますが、彼女は1)でご紹介したデヴィット・スズキの愛娘です。この親にしてこの子ありですね。
12)新エネ幻想――実現可能な低炭素社会への道
御園生誠著(エネルギー・フォーラム、2010年)
再生可能エネルギーへの過度な楽観を諌め、エネルギー問題の量的関係と時間軸を理解し、徐々にしかし着実に舵を切ることの重要性を説く書。一部の事象を拡大解釈し、部分最適の議論に終始してしまっていることが多いエネルギー問題を取り扱った書籍のなかで、東京大学工学部名誉教授である著者が書いた本書は、とてもバランスが取れているように思います。数多あるエネルギー問題に直接的に切り込んだ本のなかではお勧めの1冊です。
13)エネルギーの未来(ビジネスの未来①)
エリック・スピーゲル&ニール・マッカーサー+ロブ・ノートン(日本経済新聞出版社、2009年)
大手コンサルタント会社であるブーズ・アンド・カンパニーのコンサルタントが執筆した2030年ごろまでの未来を見通した書。さすがにコンサルタント会社が執筆しただけに、先入観を持たずに各エネルギー源の将来性が分析できており、その内容は地に足がついている印象を受けます。もちろん12)や本書だけでなく、他の著者が書いたエネルギー関係の書籍も積極的に読んでいただいて、自分なりの理解を深めていただければと思います。
14)エネルギー白書2010
経済産業省編(2010年)
日本のエネルギー政策を概観するには、やはり白書が一番でしょう。一見、とっつきにくく感じるかもしれませんが、熟読してみると実にいろいろなことが書いてあることに気が付きます。国際エネルギー機関(IEA)が毎年発行する「世界エネルギー展望(World Energy Outlook)」が1万5000~6000円することを考えれば、これで3000円+税なら悪くないと思います。欲を言えば、世界エネルギー展望と同じように、購入者には図表の元となるデータを一括してダウンロードできるようなサービスがつくと、より出典を参照しやすくなってよいのではないかと思っています。
15)Energy Myths and Realities: Bringing science to the energy policy debate
Vaclav Smil(AEI American Enterprise Institute, 2010)
最後に洋書を1冊だけご紹介します。カナダ・マニトバ大学特別教授の著者が昨年の8月に出版した最新作です。博識のシュミルは大変な多作家でもあり、昨年など、1年間に3冊も本を出版しています。ブライスも彼の著書をしばしば参照し、またインタビューもしているように、彼の著作にはエネルギー問題を考えるときに参考となるものが数多くあります。ほぼすべての著書の邦訳がないのが難点ではありますが。最近ではビル・ゲイツが彼のとりこになっており、昨年に出版された彼の著書すべてについて、自身のサイトでコメントを記入しているほどです。
おまけ)信ずることと考えること――講義・質疑応答(新潮CD講演 小林秀雄講演第2巻)
小林秀雄(新潮社、2004年)
最後の最後に書籍ではありませんが、おまけで音源をひとつ。日本を代表する批評家である小林秀雄の講演をCD化したものです。新潮社から全八巻が発売されています。私自身、小林秀雄はとっつきにくいものとして本は買ってもなかなか読み進められませんでしたが、この音源は楽に聞くことができました。そして、ものを考えるということは、こういうことをいうのかと衝撃を受けました。エネルギー問題との関連でいけば、第2巻に収録されている「なぜ徒党を組むのか」についての下りがお勧めです。イデオロギーへの痛烈な批判がそこにはあります。「信じるってことは責任を取ることです。……僕流に考えるんですからもちろん僕は間違います。でも責任は取ります。」「自分流に信じないからイデオロギーってもんが幅をきかせるんです。だからイデオロギーは匿名ですよ、常に。責任を取りませんよ。」肝に銘じたいと思います。
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    書籍情報

    著者:ロバート・ブライス
    訳者:古舘恒介
    四六判ハードカバー
    432ページ
    本体2,200円+税
    2011年7月21日発売
    ISBN978-4-86276-112-5


    エネルギー問題をじっくり考えるための15冊
    いのちの中にある地球――最終講義:持続可能な未来のために
    石油ピークが来た――崩壊を回避する「日本のプランB」
    エントロピーと秩序――熱力学第二法則への招待
    ゾウの時間ネズミの時間――サイズの生物学
    「豊かさ」の誕生――成長と発展の文明史
    森と文明
    日本人はどのように森をつくってきたのか
    国際政治とは何か――地球社会における人間と秩序
    21世紀の歴史――未来の人類から見た世界
    これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学
    グリーン革命[増補改訂版](上・下)
    新エネ幻想――実現可能な低炭素社会への道
    エネルギーの未来(ビジネスの未来①)
    エネルギー白書2010
    Energy Myths and Realities: Bringing science to the energy policy debate
    (おまけ)信ずることと考えること――講義・質疑応答