U理論――それは想像を超えた未来への旅。

世界のビジネスリーダーが注目する「変革と学習の理論」の基本を紹介

あなたは仕事や日々の生活の中で、このような経験をしたことがありませんか?

・「今のままではいけない」と思っていながら、何も行動しないまま時が過ぎる。
・組織の改革・改善プロジェクトが、現状維持を望む人たちの抵抗によって失敗した。
・アイデアは出るが実行されない。「現実的な意見」でアイデアが潰される。
・問題を解決しようとしたが、その解決策が別の問題を引き起こしてしまった。
・一人ひとりは優秀で、頑張っているのに、チームとしてはうまく機能しない。

グローバル化や高度情報化、価値観の多様化などの進んだ現代は、とても変化の激しい時代です。それに適応するため、ビジネスの世界でも日々「変化」の必要性が語られています。「このままではいけない」「何らかの変革が必要だ」「イノベーションが求められている」……そんな言葉をよく見聞きしますよね。

変化が求められているのは、ビジネス界だけではありません。経済格差、政治不信、金融危機、気候変動、貧困、失業、高齢化・少子化など、私たちの社会は多くの面で問題を抱えており、「今のままではいけない」状態に陥っています。

しかし、これほどあちこちで「変化」が必要だと叫ばれている一方で、実際に変化(問題解決やイノベーションや改善をもたらす、価値のある変化)を起こすことは容易ではなく、壁に直面することも多いのが現実です。むしろ今日、変革はますます難しくなっているとも言えます。なぜでしょうか?

 

なぜ変革は難しいのか?

ひとつの理由は、今日私たちが直面する問題の多くが、これまで経験したことのないものだからです。気候変動や高齢化、サイバーテロの問題などが典型でしょう。未知の問題ですから、過去の経験がこれまでほど役に立ちません。

また、グローバル化やネットワーク化により、問題の複雑さが増していることも特徴です。ひとつの問題を解決したら、絡み合う別の問題が生じる、といったことがよくあります。問題の原因がどこにあり、何に影響し、どう解決できるのか、簡単には見えません。

そして、もうひとつの決定的な理由は、私たちの内側に――「意識」にあります。

どんな問題も、それが創られたのと同じレベルの意識では、解くことはできない。
――アインシュタイン

民族間の紛争において、武力によって安定が生じたとしても、人々が他民族への憎しみや差別意識を持ち続けていたら、問題は解決したとは言えません。長時間労働によって離職率が高く従業員が疲弊している会社において、ただ人員を補充しても、働き方や企業文化を転換できなければ、いつまでも問題は続くでしょう。

これまでとは異なるレベルの意識を持たなければ、本当の解決は見えてこない。真の変革を起こすには、まず意識の変革が必要である。――こうした洞察のもと、個人・組織・社会の変革プロセスを探究したのが、マサチューセッツ工科大学(MIT)の経営理論家、オットー・シャーマーであり、彼が生み出した変革理論が「U理論(Theory U)」です。

「意識の変革」と言っても、単に気持ちを切り替えるといったことではありません。シャーマーは、認知心理学や哲学などさまざまな分野の知見を踏まえながら、私たちの「ものの考え方」にどんな傾向があるのか、意識はどのような構造を持ち、どのようなプロセスによって変化するのかを深く考察しました。その結果、U字型の図で変革プロセスを説明する体系を作り上げたのです。

 

「過去から学ぶ」ではなく「未来から学ぶ」

U理論は、従来とは異なるレベルの意識によって問題をとらえ、本質的な解を見出すことをめざす変革と学習の理論です。過去の延長線上に未来を見るのではなく、わだかまりのない目で「まさに生まれようとしている未来(出現する未来)」を見出し、それに向かって現実を変革していく発想に立っています。

……と言ってもわかりにくいでしょうか? 同じくMITの上級講師であり世界的なベストセラー『学習する組織』の著者、ピーター・センゲは、U理論のアプローチについて次のように述べています。

有名な学習理論のほとんどは過去から学ぶことに主眼を置いている。つまり、すでに起こってしまったことからどう学べるかに注目するのだ。こうした学び方はつねに重要だが、現代のように大きな変化が生まれつつある時代では、到底それだけでは十分とはいえない。
そこで、まだよく知られていないが新しい学習方法が求められる。シャーマーはこれを「出現する未来から学ぶ」と表現する。出現する未来から学ぶことはイノベーションには不可欠だ。出現する未来から学ぶには直感が必要だ。非常にあいまいかつ不確実な状況を許容し、失敗を恐れないことが求められる。

「過去から学ぶ」ではなく「未来から学ぶ」。こうした考え方で変革に臨むのがU理論なのです。「未来から学ぶ」など、一見非合理で不可能なことと思われるかもしれません。現実に起きていること(ファクト)に基づき、複雑な問題を細かく分けて整理し、論理的に解決策を考えるのが、私たちが(特にビジネスにおいて)慣れ親しんできたアプローチです。しかし、センゲが述べるように、それではもはや不十分であり、考え方を大きく転換する必要があるのです。

 

芸術家のように考える――今見えている範囲を超えて

既存の事実だけに基づいていては、未知の出来事や新たな問題には対応できません。むしろ、過去にとらわれて現在の状況を正しく見られない恐れもありますし、それでは斬新な発想は生まれにくいでしょう。また、問題への解決策が想定外の別の問題を引き起こす、といったことが起こりやすい現代では、「今見えている範囲」だけで考えるのは危険でもあります。

今日の問題に求められているのは、全体的・包括的な視点を持ち、過去や既知の事実の枠や線形の論理にとらわれずに考え、発想することです。より直感的・創造的なアプローチが求められています。多くのビジネスパーソンにはあまり馴染みがないアプローチかもしれません。それはいわば、芸術家のような考え方です。そしてオットー・シャーマーは、変革を起こそうとする人は、誰もが芸術家なのだと言います。

この本は、改革や変化をもたらそうとする個人、グループのリーダー、言い換えれば「芸術家(アーティスト)」のために書かれている。ビジネス界、地域社会、政府、NPOのリーダーや改革者は誰しも「芸術家(アーティスト)」と呼べるのではないか。なぜなら、新しいものを創造し、社会にもたらしているのだから。(『U理論』より)

芸術家のような考え方をするために、必要なことは何でしょうか?

U理論では、まず自分の意識に「盲点」があることを自覚することの必要性が語られます。盲点、すなわち普段は見えていない、わかっていない領域を意識することから出発するのです。確かな事実(ファクト)をベースに考えるのとは正反対と言えるでしょう。この盲点は、行動を生み出す内面の「源(ソース)」とも表現されます。U理論のテーマは、この「源」に近づくことです。

 

U理論の基本――谷を下り、上がる

「源」に近づくこと。それは私たちの日常的な習慣や経験則を手放すことを意味します。私たちの行動や思考は、習慣的なパターンにとらわれがちです。「これまでそうだったから」とか「前例がない」といったことが人の行動に及ぼす影響はとても強く、無意識のうちに影響を受けていることも多いものです。皆さんも思い当たることがあるのでは?

U理論では、そのように過去のパターンを踏襲して考えることを「ダウンローディング」と呼びます。もちろん、経験則や習慣が良い方向に作用することも多いのですが、変革に際してはしばしば大きな妨げになります。ダウンローディングを停止すること。それがUプロセスの最初のステップです。

ダウンローディングを停止したら、今の現実をありのままに「観る」ことが次のステップになります。ここでは詳しく説明できませんが、「観る」ためには、問いを持つこと、状況(コンテクスト)に入り込むこと、判断を一時保留することなどが必要とされます。その次は、出来事を自分と切り離して見るのではなく、自分もそれを構成する一部だという自覚を持って現実の全体像を「感じ取る」ステップ。これらはU字型の左側を下りていくプロセスとして説明されます。

そして、現時点の全体性を感じ取ることから、これから生まれ得る未来――自分次第で実現し得る未来――の可能性へと視座を移す「プレゼンシング」の段階が、Uの「底」の部分となります。

Uプロセス

プレゼンシング」という言葉は、聞いたことがない人が多いと思います。これはsensing(感じ取る)とpresence(存在)の混成語で、U理論ならではの用語です。端的に説明すれば、「未来の可能性を、自己を通して今この時に持ち込むこと」……これだけでは理解しづらいかと思いますが、芸術家の「創造の瞬間」をイメージしていただければと思います。それまで見えなかった可能性や真実や「あるべき姿」に気づき、心が震えるような瞬間、と言えばよいでしょうか。

プレゼンシングを境に、今度はU字型の右側を上がっていきます。未来の可能性からビジョンと意図を明らかにする「結晶化」、実行することによって未来を探索する「プロトタイピング」を経て、「実践する」ステップへ進むと、ついに新しい現実が生まれます。ここでは詳しく語れませんが、書籍『U理論』では個々のステップが何を意味するか、それをどのように進めばよいかが丁寧に解説されています。Uの谷を下って、上がる。これがU理論における変革のプロセスであり、旅(ジャーニー)の道程です。

 

哲学からデザイン思考まで、多様な知見を融合

このようなU理論の変革プロセスは、特に「プレゼンシング」の段階など、ビジネス界で常識と見なされる論理的思考とは大きく異なる性質を持つため、最初は違和感を覚える人が多いようです。しかし、人間社会の問題はしばしば論理だけでは割り切れないもの。個人間の問題であれ、組織の問題、社会や国家の問題でも、意見や立場の異なる主体それぞれに論理があり正義があるのが現実です。

また、新たな発想やイノベーションには論理だけではない何かが求められることも、多くの人が頷かれるのではないでしょうか。ビジネス界でも近年、直感の重要性が語られたり、フィールドワークやインプロビゼーション(即興劇)の研修が広がったり、異文化理解力に注目が高まったりと、従来とは異なる思考・行動のアプローチを求める動きは強まっています。

U理論のプロセスが、様々な分野の知見や先端的な手法の性質を兼ね備えていることに気づかれた人もいるかもしれません。「感じ取る」のステップは、『世界が100人の村だったら』で知られるドネラ・メドウズが提示した、物事の本質をつかむ思考法「システム思考」の核心とも言えます。アイデアを形にしてみて検証する「プロトタイピング」は近年注目される「デザイン思考」でも重要なステップです。学術的にも、U理論は哲学、心理学、認知科学など幅広い知見を取り入れており、非常に学際的です。

 

内側から変革を起こせ

多種多様な知見に基づいているからこそ、U理論は、さまざまな分野の変革に活用できると言われているのでしょう。ビジネスにおける組織変革新規事業開発イノベーション創出リーダーシップ育成、また社会問題の解決地域コミュニティの再生といった領域にも、U理論のアプローチは取り入れられています。『U理論』に続くオットー・シャーマーの著作『出現する未来から導く』では、経済格差、金融危機、環境破壊、消費主義、政府のあり方、テクノロジーといった多様なテーマにU理論を適用し、実際に起きている現象や事例を紹介しながら変革を論じています。

この本は、企業、政府、市民社会、メディア、学界、地域コミュニティなどを含むあらゆるセクター、文化、システムの中にいる変革者たちのために書かれた。(『出現する未来から導く』より)

世の中には「変革」に関する書籍は数多くありますが、U理論が特徴的なのは、真に求められる変革は、人間一人ひとりの、自分自身の内側の変革によってこそ生じるのだと明瞭に示していることです。Uの谷の「底」であるプレゼンシングの段階で、未来の最高の可能性を見出すとき、人は利己心にとらわれた小さな自己を超え、その人の最も優れた本質である「真正の自己(オーセンティック・セルフ)」につながるのだとシャーマーは語ります。

本当に望ましい変革を実現するため、まず自分自身を超える。U理論は、小手先の変化のためにハウツーを語るものではありません。ビジネスパーソンとして、一人の人間として、あるいは集団や組織としての成長を不可避的に伴う、本物の変革を導くための理論なのです。そして大規模な社会変革であれ、少人数のチームの変革であれ、どんな変革にもそのような挑戦があり、それだけに大きなやりがいもあることが、シャーマーの記述からは読み取れます。ここに、U理論が世界各地で多くのビジネスリーダーやマネジャー層に熱く支持されている一つの理由があるようです。

いかがでしょう。不確実性が高く変化の激しい時代のなかで、Uへの旅に踏み出し、自己と世界の可能性を探求する変革者として生きる道を、あなたも選んでみてはいかがでしょうか?

U理論

過去や偏見にとらわれず、
本当に必要な「変化」を生み出す技術

複雑さを増す今日の諸問題に、私たちはどう向き合うべきなのか? 「未来から学ぶ」という斬新な視点を提示し、その手法を体系化したU理論は、経営学に哲学や心理学、認知科学、東洋思想まで幅広い知見を織り込んだ他に類を見ない理論であり、その示唆は21世紀の世界に幅広く根本的な影響をもたらしつつある。あらゆる前提を取り払い、最も深い内面の声に耳を傾けよ――人・組織・社会の「在り方」を鋭く深く問いかける、現代マネジメント界最先鋭の「変革と学習の理論」。

C・オットー・シャーマー[著]
中土井僚、由佐美加子[訳]
A5判ハードカバー 608ページ 定価:本体3,500円+税 
2010年11月16日発売

地球温暖化、生物多様性の問題、地域紛争やテロ、拡がる地域格差と貧富の差。すべてわれわれが緊急に解決しなければならない社会的課題である。U理論はこうした課題に対処できる未来創造志向の新たなリーダー像とその課題解決に向けたイノベーションのプロセスを提示する。著者の研究基盤である経営学に、哲学、心理学、認知科学、宗教などの知見がブレンドされた味わい深い一冊である。――野中郁次郎(一橋大学名誉教授)


『U理論』電子版 半額セール中!(~2015/10/31)

日本語版訳者まえがき
序文――ピーター・センゲ
はじめに

[第I部 盲点に突き当たる]
第1章 火事
第2章 Uへの旅
第3章 学習と変化の四つの層
第4章 組織の複雑さ
第5章 社会の変容
第6章 哲学的見地
第7章 敷居

[第II部 Uの領域に入る]
第8章 ダウンローディング
第9章 観る
第10章 感じ取る
第11章 プレゼンシング
第12章 結晶化する
第13章 プロトタイピング
第14章 実践する

[第III部 プレゼンシング]
第15章 社会的な場の文法
第16章 個人の行動
第17章 会話の行動
第18章 組織の行動
第19章 グローバルなアクション
第20章 飛びながら現実を創造する
第21章 プレゼンシングの原則と実践
エピローグ プレゼンシング実践の学校


日本語版 訳者まえがき

22世紀を生きる未来の人たちが、21世紀を生きた私たちの記録に触れたとき、どんな想いを抱くでしょうか。21世紀とはどんな時代であったと語られるのでしょうか。

産業革命以降、留まることなく発展してきたテクノロジーは、先進国を中心に物質的な豊かさをもたらしてくれたと言えるでしょう。そして、そのテクノロジーの進化は、20世紀を生きた人たちに、自動車が空を飛び、宇宙空間を自由に旅できるのが21世紀なのだという大きな夢を与えてくれました。

実際、1900年代初頭には、大きく空を羽ばたく飛行機に多くの人が胸を踊らされたでしょうし、インターネットが普及し始めた、21世紀を目前に控えた1990年代半ばにおいては、「これからは、余計な雑務から解放されるので、その余暇をいかに過ごすかを考える時代だ」とさえ言われていました。そして、実際に21世紀を体験し始めてから、早くもその10分の1が過ぎ去ろうとしています。

「世界がフラット化したと言われるように、瞬時に世界中の人々とつながることができるようになり、世界中のあらゆるものは、デジタル化・データ化することで、管理し、解析し、予測しうるものとして扱えるようになった」と言う人もいるかもしれません。

それは人類の智慧の勝利である、と。

勝利に酔いしれる一方で、グローバルに目を向けると、エネルギー問題、食糧問題、環境問題、大規模な自然災害、増大し続ける種の絶滅や国境を越えたテロリズムといった、人類が一度も遭遇したことのない地球規模の問題を私たちは抱えるようになりました。日本国内を見ても、人口減少、雇用不安、国際競争力の低下、メンタルヘルス問題の増加、財政危機などの解決困難な問題に直面しています。

そして、皮肉なことに、「管理し、解析し、予測する」精度を高めているデータが、起こりうる未来の厳しさを映し出し、警告を鳴らし続けています。

しかしながら、私たちは有効な打ち手を見出していないばかりか、有効な打ち手を生み出すための十分な行動すらも生み出せていないのではないでしょうか。

これまで約20年に渡り、ビジネスパーソンを中心に多種多様な方々と対話を重ねてきましたが、これらの問題に関心はあっても、それが「他人事ではなく、自分の問題だ」というスタンスに立っている方に出会う機会は、残念ながら多くはありません。

優れたビジネスパーソンや著名な経営者の方でさえ、こうした問題については「いつか、誰かが、何かが」見事に解決してくれるだろうという淡い期待を抱いて生きている姿を幾度となく目にしてきました。

この"Someday, Someone, Something"という私たち一人ひとりのスタンスは、数多くのニーズという種を蒔き、テクノロジーの発展に一役を買ってきたのは間違いないでしょう。しかしながら、私たちがこれまで遭遇したことのない数々の問題は、地球規模での複雑な因果関係の中で生じている現象であるようです。だとすれば、これまでのように「誰か」というスーパーヒーローや、「何か」という特定のテクノロジーが解決してくれるほど、容易な状況ではないはずです。

オットー・シャーマー氏の提唱する『U理論』では、「コレクティブ・リーダーシップ(集合的なリーダーシップ)」という概念が紹介されています。これは「特定の誰かがリーダーシップを発揮する」という一般的なリーダーシップのイメージからはかけ離れたものです。

この概念においては、多様なステークホルダーが、現状をただひたすら共に観察し、内省し、盲点となっている領域に注意を向け、「出現する未来」から学び、共に即興的に行動する――という一連の集合的なプロセスが描かれます。

それは歴史小説などで示される経験的な知恵や、MBAをはじめとする経営工学に基づいた考え方に慣れ親しんだ私たちにとって、あまりにも馴染みのない、「机上の空論」とさえ思ってしまいそうな概念です。その上、U理論は多くのビジネス書で語られる使い勝手の良いノウハウやテクニックではないため、見方によっては、混乱やもどかしさを感じてしまうかもしれません。

しかし、東洋思想にも通じるこの理論は、私たち日本人にとって、どこか懐かしく、かつ「本当に大切な何か」が語られているようにも感じられるはずです。

この『U理論』は、20世紀から持ちこされている大きな「宿題」に向き合い22世紀へと橋渡しをする役を担っている、21世紀を生きる私たちへの大きな問いかけです。そして同時にそれは、東洋の文化に生きる私たち日本人への限りない期待と、責任の大きさを伝えようとしているように私は思っています。

オットー・シャーマー氏が自身の人生を賭けて練り上げたこの理論が22世紀への大きな贈り物となることを心から願うとともに、この理論に触れた私たち一人ひとりの主体的な関わりこそがそれを実現に導くことを深く確信しています。

最後に、日本語版の出版にあたってご推薦文をいただいた一橋大学の野中郁次郎先生、翻訳に多大なご尽力をいただいた野村総合研究所の永井恒男さんとIDELEAチームの皆様、シスコシステムズの土屋恵子さん、ダイアログアーツの渋谷聡子さん、Be@workの近藤直樹さん、土井英明さん、秋山奈緒子さん、田畑吉規さん、出版に至るまで数々のご支援をいただいたSoLジャパンの小田理一郎さんとメンバーの皆様、限りない声援と応援を尽くしてくださったクオンタムチェンジワークショップ卒業生の皆様、そして、長きに渡って辛抱強くサポートし続けてくださった英治出版の原田英治社長と高野達成さんに心からのお礼を申し上げます。

2010年10月
社団法人プレゼンシングインスティチュートコミュニティジャパン
代表 中土井僚 由佐美加子


出現する未来から導く

U理論で自己と組織、社会のシステムを変革する

私たちは混乱の時代に生きている。貧富の格差、政治の混迷、組織の機能不全、環境破壊・・・複雑に絡み合う現代のビジネス・経済・社会の諸課題を乗り越えるには、私たちの考え方の転換が必要だ。盲点に気づき、小さな自己を超え、全体の幸福につながる組織・社会のエコシステムを創らなければならない。その取り組みは既に始まっている――。注目の変革理論「U理論」の開発者が、未来志向のリーダーシップと組織・社会の変革をより具体的・実践的に論じた待望の新著。

C・オットー・シャーマー、カトリン・カウファー[著]
由佐美加子、中土井僚[訳]
A5判ハードカバー 368ページ 定価:本体2,400円+税
2015年7月14日発売

時代を変える一冊! 今や世界中の多くの人々が目指しているシステム変化の内と外の側面を統合した刺激的で実用的な書籍だ。――ピーター・センゲ(マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院上級講師、『学習する組織』著者)

志ある人には必読の書である。これまでに読んだ中で最も重要な一冊になるかもしれない。――アーサー・ザイエンス(マインド・アンド・ライフ・インスティテュート代表)

経済を転換させる独創的で実践的なアプローチを提供する本。私はビジネスを一つの運動ととらえている。この本はその運動を世界と共有し、私たちの深いレベルの人間性を引き出す意欲に火をつけ、今日の危機を転換させるよう私たちを駆り立てる。――アイリーン・フィッシャー(アイリーン・フィッシャー・インク創業者)

日本語版 訳者まえがき
はじめに――死に瀕したシステムに命を吹き込む
第1章 表面――死と再生の諸症状
第2章 構造――システムが生む断絶
第3章 思考を転換する――経済進化のマトリックス
第4章 源――意図と意識につながる
第5章 個人の転換を導く――「私」から「我々」へ
第6章 関係性の転換を導く――エゴからエコへ
第7章 組織の転換を導く――エコ・システム経済を目指して
第8章 出現する未来から導く――今こそ


日本語版 訳者まえがき

オットー・シャーマー博士の著書Theory U: Leading from the Future as It Emergesが米国で出版されたのは2007年。経営学に科学、哲学、心理学など多様な分野の知見が織り交ぜられたこの独創的な変革理論は、多くのビジネスリーダーや思想リーダーに支持され、ベストセラーとなりました。変化が激しく、不確実性の高まった世界において、過去のパターンにとらわれない変化を生み出すためのU字型のプロセスは、まさに求められている考え方だったのだと思います。

日本にもこの理論を伝えたいという想いと多くの方々の共感に支えられて筆者らが邦訳した『U理論――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』が書店に並んだのが2010年11月。そして、それから4カ月後の2011年3月11日に東日本大震災が起こりました。

この時から日本は、自然災害による破壊からの復興だけでなく、原発事故と放射能汚染という、誰も確たる解をもたず責任も取りきれない未曾有の負債を抱える国になりました。そして震災後の日本では、過去を取り戻す「復旧」ではなく、新しい社会の在り方の「創造」を模索する動きが次々に生まれてきたように思います。

過去に成功したやり方を、もっと早く、もっと多く遂行すれば、なんとかなるはずだ。専門家とその専門知識があれば打ち手が見つかるはずだ。――このような従来の問題に対する思考や解決法は、今日私たちが直面している、経験したことがなく、複雑で、正解のない問題には、まったく通用しなくなっている。震災は、このことをはっきりと認識せずにはいられない、大きなターニングポイントだったのではないでしょうか。

多くの課題や問題に満ちた今日の現実に対して、解決する方法(HOW)をどんなに考えて実行しても、適切な道筋は見出せない。なぜならば、その現実(形)は「意識」が行動を通して創り出しており、意識に働きかけない限り、本当の解決には至らないからだ。――これがU理論の核であり、内面の「意識」に焦点を当てたことが、従来のさまざまな経営理論・変革理論に対してU理論がとりわけ画期的であったポイントだと言えるでしょう。シャーマー博士は、私たちの意識が過去のパターンにとらわれているために、誰も本当に望んではいない現実を、私たちが自ら創り出しているということを『U理論』で示しました。

では、望む現実を創り出すための意識は、どのように醸成されるのでしょうか。

そのためには、自己や自分の組織、自分の属するコミュニティだけの利益と部分最適を求める自我(エゴ)を越えて、システム内のすべての生命の充足を目的とした「全体性」から「自分は何者なのか」を問い直すこと、そして真の自己や社会のあるべき姿を深いレベルまで掘り下げることが必要だ。――『U理論』から6年ぶりに記された新著である本書『出現する未来から導く』(Leading from the Emerging Future: From Ego-System to Eco-System Economies)で、シャーマー博士はこのように述べています。

このプロセスで起こる「意識の変化」によって、私たちの「内面の場の転換」がもたらされる。その「源(ソース)につながった」内面の場から、未来の可能性が立ち現われてくる。それに対する意識から起こす行動こそが、私たちの新しい現実を創り出す。本書のタイトルになっている「出現する未来から導く」とは、このように自らの内側を変えることから出発し、あるべき未来に導かれるようにして現実を変容させていくプロセスを意味します。そして著者は、このプロセスを私たちは集合的に実践することができると述べています。過去のパターンにとらわれることで誰も望まない現実を創り出してしまうのとは対照的に、真に望む変化を生み出すことができるのだと。

振り返ってみると、震災という出来事を通して、日本で生きる私たちの多くが、改めて自分の内面と向き合い、生きる意味や目的を問い直したのではないでしょうか。自分は何のために生きるのか。自分にとって幸せとは何なのか。仕事を通じて自分は世の中で何を成したいのか。そのような「全体性への覚醒」ともいえる内省を、多くの人が経験したのではないでしょうか。これはU理論で捉えると、行動を創り出していた「内面の意識」が転換する、集合的な意識変容プロセスといえます。私たちは個人としても、国としても、また企業や地域コミュニティとしても、大きなUプロセスを体験する機会を、過酷な自然災害を通して与えられたのかもしれません。この体験が何を意味しているのか、私たちはこの体験を経てどこに向かっているのか、向かいたいのか。それを探究し続ける必要があると感じています。

本書では、この自我から全体性への意識の転換は「エゴ‐システムからエコ‐システムへ」という言葉で表現され、現実に各国や企業で起こっている事例を用いてUプロセスの具体的な内容がひも解かれています。前著『U理論』では概念的な議論が多くを占めていましたが、本書では、世界中の実存する様々なシステムや事例を通して、U理論がどのように実践されているのか、より現実的に理解することができる内容になっています。加えて、ビジネス・経済のあり方からテクノロジー、自然との関係、リーダーシップのあり方など、世界のさまざまな側面において読者を取り巻く状況が今、どのような段階にあり、次にどんな展開を迎えられればよいのかを見出すためのヒントが4段階の枠組みの中で示されています。

U理論は、人間は存在の「源」につながり、全体性への意識から集合的に「現実を創造する」ことができるのだという、人間存在そのものに対する大きな希望を示しています。私たちは機能不全のシステムの犠牲者ではなく、あらゆる存在の幸せに資するシステムの創造者として生きられる。今こそ、この能力と可能性を開く時なのかもしれません。

シャーマー博士の前著の出版から5年を経て、当初の想像をはるかに超えた数多くの方々が、望む変化を起こす新しいアプローチとしてU理論に興味関心を持ち、筆者らが主催するU理論を学ぶ場に足を運んでくださいました。そしてUプロセスを使った対話の場や組織での導入事例も数多く蓄積されてきています。

本書『出現する未来から導く』は、U理論を自身の直面する現実に役立てたいと望む多くの方々にとって、きわめて有用な実践の指針と見取り図を提供するでしょう。組織や事業の変革を成し遂げたいビジネスリーダーやマネジャー、イノベーションへの新たなアプローチを求めている方々、未来の社会のあり方を構想する行政や非営利組織、地域コミュニティに携わる方々など、未来志向で現実を変えていきたい多くの方にぜひお読みいただければと思います。

まったく予想のつかないこれからの未来に何があったとしても、人間性に立って望む未来を創ろうとする、希望と意志から行動する人々とそのつながりが社会の原動力になっていくと筆者らは信じています。この本がその触媒の一つとなっていくことを願ってやみません。

最後に、5年前、完全に未知の可能性だったU理論を世に出すことに共感していただき、前作に続き本書でも翻訳作業を辛抱強く待ち続けてくださった英治出版の原田英治社長と高野達成さんに心より感謝申し上げます。

2015年6月
由佐美加子 中土井僚

著者紹介

C・オットー・シャーマー
C. Otto Scharmer

マサチューセッツ工科大学(MIT)上級講師・IDEASプログラム座長、プレゼンシング・インスティテュート創設者・座長。精華大学客員教授。アフリカ、アジア、南北アメリカおよびヨーロッパで政府、国連機関、企業、NGOと協働してきたほか、アリババ、ダイムラー、アイリーン・フィッシャー、富士通、グーグル、ナトゥーラ、プライスウォーターハウスなどの顧客企業にリーダーシップとイノベーションに関するプログラムを提供してきた。2012年には政府、企業、教育、市民社会の抜本的な変革のプロトタイプを創造するため、ブータン、インド、中国、ブラジル、ヨーロッパ、アメリカの変革者を結びつけるグローバル・ウェルビーイング・アンド・グロス・ナショナル・ハピネス(GNH)を共同創設。世界経済フォーラム「新しいリーダーシップモデルに関するグローバル・アジェンダ・カウンシル」の副座長も務めている。ドイツのヴィッテン‐ヘアデッケ大学で経済学と経営学の博士号を取得。ボストン圏に家族と在住。
オットー・シャーマー公式サイト(英語)


[『出現する未来から導く』共著者]

カトリン・カウファー
Katrin Kaufer

プレゼンシング・インスティテュート共同創設者・研究ディレクター、MIT都市研究計画学部コミュニティ・イノベーターズ・ラボ(CoLab)研究フェロー。リーダーシップ、社会変革、社会的責任金融を研究テーマとする。中規模および世界規模の企業、非営利組織、世界銀行、国連開発計画にコンサルティングを提供してきた。現在は、金融を好ましい社会変革に結びつけることに力を注ぐ20の金融機関のネットワークであるグローバル・アライアンス・フォー・バンキング・オン・バリューズと協働。またオンライン学習プラットフォームである、プレゼンシング・インスティテュートのグローバル教室のコンセプトを共同開発した。ドイツのヴィッテン・ヘアデッケ大学でMBAと博士号を取得。ボストン圏に家族とともに在住。

[訳者]

中土井 僚
Ryo Nakadoi

リーダーシップ・プロデューサー。オーセンティックワークス株式会社代表取締役。一般社団法人プレゼンシングインスティチュート・コミュニティ・ジャパン理事。同志社大学法学部政治学科卒。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア株式会社)等を経て2005年に独立。「自分らしさとリーダーシップの統合とコ・クリエイション」をテーマにU理論をベースとしたリーダーシップ開発と組織開発に従事。過去に手掛けた変革プロジェクトは、業績低迷と風土悪化の悪循環に陥っていた化粧品メーカーのV字回復や、製造と販売が対立していた衣類メーカーの納期短縮など70以上。著書に『U理論入門』(PHP研究所)

由佐 美加子
Mikako Yusa

合同会社CCCパートナー。米国大学卒業後、国際基督教大学修士課程を経て野村総合研究所入社。後にリクルートに転職、事業企画職を経て人事部に異動し、「学習する組織」の考え方に基づく人材・組織開発施策を導入。2005年米国ケースウェスタンリザーブ大学経営大学院で組織開発修士号を取得。出産を経て、グローバル企業の人事部マネジャーとして人材・組織開発を担った後、2011年に独立し、2014年に合同会社CCCを設立。競争と分断を越えたCo-creation(共創造)を個人の人生や企業組織、社会に創り出すプロセスを提供している。

記事・映像

  • 「U理論」とは?(中土井僚『人と組織の問題を劇的に解決するU理論入門』より)|PHPオンライン
  • U理論はエンジニアの学び方を変えられるか?――中土井僚×西尾泰和、過去の枠組みにとらわれないイノベーションのプロセスを考える|サイボウズ式
  • “雰囲気最悪”な職場の共通項――みんな「人のせい」にばかりしている|日経ビジネスオンライン
  • 『アナと雪の女王』のように「ありのまま」で生きても職場で浮かないのか?|Yahoo!ニュース

  • オットーシャーマー博士メッセージビデオ1

    オットーシャーマー博士メッセージビデオ2

    U理論をベースにした222人によるラージスケールダイアログの実践
    2014年2月22日に行われたU理論出版記念シンポジウムの記録動画です。

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